大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 平成7年(行ウ)8号 判決

原告

田中康介

右訴訟代理人弁護士

梶山正三

岩橋宣隆

被告

神奈川県知事

岡崎洋

右指定代理人

大圖明

外八名

主文

一  被告が平成七年一月三一日付けで株式会社ダックに対して許可番号環整第C〇八二〇九号、一四二五〇二六〇三三号をもってした産業廃棄物処分業の許可処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  事案の概要

本件は、被告が訴外株式会社ダック(以下「訴外会社」という。)に対して産業廃棄物処分業(以下「産廃処分業」という。)の許可(以下「本件産廃処分業許可」という。)をしたところ、訴外会社の事業の用に供する施設(中間処分(焼却)施設。以下「本件産廃処理施設」という。)の周辺地域で農作業に従事する原告が本件産廃処分業許可には適法な処理施設を有しないのにされた違法がある等として、その取消しを求めた事案である。

第二  原告の請求

主文と同旨

第三  前提事実(証拠により事実を認定する場合は、事実の前後に認定に供した証拠を適宜略記する。証拠の記載のない事実は争いのない事実である。第五でも同様とする。)

一  本件産廃処分業許可

1  訴外会社が平成四年七月三日受理に係る産業廃棄物処分業(以下「本件産廃処分業」という。)の許可申請(以下「本件産廃処分業の許可申請」ということがある。)をしたところ、被告は、平成七年一月三一日付けで許可番号環整第C〇八二〇九号、一四二五〇二六〇三三号をもって廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)に基づく産業廃棄物処分業の許可(本件産廃処分業許可)をした。

2  訴外会社が許可を受けた業務内容は、小田原市久野字菊水四八七一―三七内の一二〇〇平方メートルの区域で、紙くず、木くず、繊維くず及びゴムくずを焼却するというもので、焼却施設の処理能力は、一日当たり22.4トンである。そして、この中間処分(焼却)施設である本件産廃処理施設については、廃棄物処理法(後記新法)一五条一項の設置許可はされていない。

二  根拠法規の改正と本件産廃処分業許可及び本件産廃処理施設

1  廃棄物処理法の改正

廃棄物処理法は、平成三年一〇月五日法律第九五号により改正され、その施行期日は平成四年七月四日であった。廃棄物処理法は、右改正後、平成九年六月一〇日法律第八五号をもってさらに大きな改正がされた。本件では、右の平成三年の改正の前後の法の適用関係が争点となっているので、平成三年一〇月五日法律第九五号を「改正法」といい、改正法による改正前の廃棄物処理法を「旧法」といい、改正法による改正後で平成九年六月一〇日法律第八五号による改正前の廃棄物処理法を「新法」という。後記の政令及び省令についても、同様とする。

2  旧制度の内容

産廃処分業の許可要件について、旧法では、その一四条二項により右の事業の用に供する施設(以下「産廃処理業の用に供する施設」という。)及び申請者の能力が厚生省令で定める技術上の基準に適合すること並びに申請者に欠格事由のないことが要求されていた。次に、右規定を受けた厚生省令である廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(ただし、平成四年七月厚生省令第四六号による改正前のもの。以下「旧規則」という。)一〇条二項においては、技術上の基準について、所定の基準を定めていた。

そして、旧法下では産業廃棄物処理施設(以下「産廃処理施設」という。)とは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(ただし、平成四年六月政令第二一八号による改正前のもの。以下「旧令」という。)七条に規定するものであって、設置しようとする場合には都道府県知事に対する届出が必要であった(旧法一五条一項・一二条五項二号)。

3  新制度の内容

改正法による改正後の廃棄物処理法(新法)においても、産廃処分業の許可要件の内容は基本的には類似しており、産廃処分業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確かつ継続して行うに足りるものとして厚生省令で定める基準に適合すること及び申請者に欠格事由のないことが要求された(新法一四条四項・六項)。

ところが、新法下では産廃処理施設とは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(ただし、平成四年六月政令第二一八号による改正後のもの。以下「新令」という。)七条に規定するものであって、設置しようとする場合には、設置場所を管轄する都道府県の知事の許可を要することとなった(新法一五条一項)。

4  本件産廃処分業の許可申請と施設の扱い

本件産廃処分業の許可申請は、旧法に基づき一のとおりにされ、改正法の施行の際に現に申請がされていた状態にあったものである。このような場合でも、仮に本件産廃処理施設に旧制度の適用があるとすると、本件産廃処理施設は、旧令七条に該当しないので、これにつき旧法一五条一項に基づく設置についての届出は不要であった。

反対に、仮に本件産廃処理施設に新制度が適用されるとすると、本件産廃処理施設は、新令七条一三号の二(一日当たり処理能力が五トンを超えるもの)に該当するので、その設置には許可を要することとなる。

三  原告と本件産廃処分業との関係

原告は茶の栽培その他の農業を営むものであり、原告の茶畑は訴外会社が所有する産廃処理業の用に供する施設(本件産廃処理施設〉の西側二〇〇メートル及び六〇〇メートルの所に位置する(原告本人)。なお、原告の肩書住所地は、本件産廃処理施設と三キロメートル以上は離れている(弁論の全趣旨)。

第四  主な争点と当事者の主張

一  原告適格の有無(争点一)

1  原告の主張

(一) 産廃処分業は、特定の事業、すなわち産廃処分業許可申請書に記載される使用施設、取り扱う産業廃棄物の種類、事業所等の所在地等で特定される事業の範囲に限って、認められるものである。右の意味で産廃処理業の用に供する施設に対する規制は産廃処分業の許可の内容の一部をなすものである。そして、新法により、産廃処理施設の設置が届出制から許可制にされ、設置許可を受けた者は、周辺地域の生活環境の保全及び増進に配慮するものとされている。また、廃棄物処理法は、廃棄物の適正な処理、すなわち廃棄物の収集、運搬、処分等を目的とするものであり、周辺環境に対する個別的、具体的被害の防止を目的としている。したがって、産廃処分業の許可を受けた業者の事業により生活環境に悪影響を受け、それにより生命、身体、財産等に被害を被る蓋然性のある周辺住民は、廃棄物処理法によって保護された法的利益を有する。

(二) 原告は、本件産廃処理施設から西に二〇〇メートル及び六〇〇メートルの場所に各約四〇〇〇平方メートルの茶畑を有しているところ、本件産廃処理施設中の焼却炉は劣悪であり、そこから排出される窒素酸化物、塩化水素ガス、二酸化硫黄ガス等の有毒ガス、ばいじん、ダイオキシン等は、畑作業中の原告の健康を害し、茶畑を汚染する。また、右の有毒ガスは、長期的には茶畑の土壌に残留堆積し、茶の樹木そのものを枯れさせる。よって、このような被害を受ける原告は、本件産廃処分業の取消しを求める原告適格を有する。

2  被告の主張

廃棄物処理法は、生活環境の保全と公衆衛生の向上を目的とするものであり、産廃処分業の許可は、産業廃棄物の適正な処理を図るとともに、生活環境を保全するために必要な産業廃棄物処理体系の整備促進を図るものであり、一定の要件を具備した申請者に一般的な禁止を解除し、営業の自由を回復させるものであるから、産廃処理業の用に供する施設の周辺住民に特別の権利を付与するものではない。また、産廃処分業の許可要件は、公益を実現しようとするもので、周辺住民の個人的利益を直接保護することを目的とするものではない。なお、原告は本件産廃処理施設の周辺住民として被害を被ると主張するが、具体的な被害又はそのおそれがあることの証明がない。

よって、本件産廃処理施設の周辺住民に過ぎない原告は、本件産廃処分業の根拠規定により法律上保護された利益を有せず、本件産廃処分業の取消しを求める法的利益を有しない。

二  本件産廃処分業についての適用法規(争点二)及び違法事由の存否(争点三)

1  原告の主張

(一) 適用法規の誤り及び設置無許可産廃処理施設による本件産廃処分業の違法

(1) 訴外会社による本件産廃処分業の許可申請が受理されたのは平成四年七月三日であるところ、新法の施行期日は同月四日である。このように新法施行の際に現に旧法に基づき産廃処分業の許可申請がされている場合には、右申請は新法による申請とみなすとの経過規定(平成三年一〇月五日法律第九五号附則―以下「改正法附則」という。―三条二項)によることになる。

したがって、本件産廃処分業の許可申請は、新法一四条六項一号に基づく基準を満たす必要がある。

(2) 新法一四条六項一号では、その事業の用に供する施設が廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(ただし、平成四年七月厚生省令第四六号による改正後の右規則。以下「新規則」という。)に定める基準に適合する旨が要請されているところ、改正法附則に経過規定もないので、本件産廃処分業を行う場合に必要な産廃処理業の用に供する施設(本件産廃処理施設)の基準については、新法に基づく法令の規定が適用されるべきである。

(3) そして、本件産廃処理施設は、一日当たりの焼却能力が五トンを超えるものであるため、新法一五条一項により産廃処理施設についての設置許可を要することとなったが、この許可がされていない。したがって、訴外会社は産廃処理施設を所有しない者と同視されるべきであり、産廃処分業の許可を与えられるべきではなかった。

なお、後記被告の主張(一)(5)について述べると、新法一五条一項に基づく産廃処理施設の設置許可手続と実質的に変わらない審査が本件産廃処理施設について行われたこともないし、そもそもそのようなことを理由に産廃処理施設の設置許可の手続を潜脱することは許されない。

(二) 申請者に関する基準違反

また、産廃処分業許可の申請者(法人の場合には役員も同様である。)がその業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあるときは産廃処分業を許可してはならないと定められている。ところが、訴外会社の代表取締役の杉山東秋は、その業務に関し、不正又は不誠実な行為をするおそれが極めて強い。

(三) 判断権者を誤った違法

本件産廃処分業許可は、法的判断権を有する者によって適正な手続の下に行われていない。

すなわち、本件産廃処理施設の設置について改正法附則五条が類推適用あるいは準用されて許可が不要となるかどうかが問題となり、これについて厚生省の意見を聴くことがされたようであるが、これは、軽易な判断事項ではなく、神奈川県(以下「県」ということがある。)環境部長の専決事項である。また、訴外会社が本件産廃処理施設(焼却施設)をネッシー工業株式会社(以下「ネッシー工業」という。)のMKD四〇〇〇型から恵比寿産業株式会社(以下「恵比寿産業」という。)のHT四〇〇〇型に変更したが、これについての審査も、環境部長の専決事項である。ところが、県では、これらにつき、処分権限者である被告知事が関与していないし、仮に専決としてされたとしても、専決権者である環境部長が行ったのではなく、専決権限のない県の環境整備課長が行っている。

(四) よって、本件産廃処分業許可は、違法であり、取り消されるべきである。

2  被告の主張(一)について

(一) 原告の主張(一)について

(1) 原告の主張(1)の前段は認め、後段の主張は争う。改正法附則三条二項により新法に基づくものとみなされた産廃処分業の許可申請に対する許可審査基準は、行政実務上旧法によることとし新法にはよらないこととする旨の通知が発出されている。そこで、本件産廃処分業の許可申請については、旧法の一四条二項一号の審査基準が適用される。

(2) 原告の主張(2)のうち、本件産廃処理施設に新法が適用されるべきとの点は争い、その余は認める。本件産廃処理施設は、旧法一五条一項に定める設置についての届出の必要な施設には該当しない。したがって、本件産廃処分業許可は、旧法一四条二項一号及び二号の要件を満たしている。

(3) 原告の主張(3)のうち、本件産廃処理施設が一日当たりの焼却能力五トンを超えるものであることは認め、設置許可を要するとの点は争う。

(4) 旧法下で産廃処理施設の設置についての届出をした場合には新法により設置許可を受けた者とみなされる(改正法附則五条)。そこで、旧法下で産廃処分業の許可申請がされていれば、その産廃処理業の用に供する施設については、設置についての届出の必要な産廃処理施設についての経過規定を類推して、新法の施設に対する設置許可を受けたものとみなされるべきである。本件産廃処理施設は、旧令七条に該当しない施設(以下「旧令七条非該当施設」のようにいう。)であり、明示の経過規定はないが、旧法下での設置についての届出を経たことに準じた状況にあるので、新法による設置許可を受けたことになる。したがって、本件産廃処分業許可は、設置許可のあったとみなされる産業処理施設を有する訴外会社についてされたものであり、原告の主張(一)の違法はない。

(5) 仮に本件産廃処理施設について新法一五条一項に基づく設置許可が必要であるとしても、本件産廃処理施設については実質的には右許可審査と同様の手続がされているので、本件産廃処分業許可に施設設置許可手続潜脱の違法はない。

(二) 原告の主張(二)のような事実はない。

(三) 本件産廃処分業許可は、県の環境部長の専決としてされた。これについて、県の環境整備課長が専決規定に反したとしても、専決規定は、外部との関係で違法事由となるものではないので、本件産廃処分業許可に原告主張の違法はない。

第五  争点についての判断

一  判断の順序(先決問題)

本件では、本案前の問題として原告適格の有無の問題がある。ところで、原告適格については、本件産廃処分業許可の根拠となった行政法規の趣旨及び解釈が問題となる。そうすると、行政法規としての廃棄物処理法を検討することになるが、それが改正されているので、改正前のものを対象として検討するのか、改正後のものを対象とすべきかの問題が生じる。

この適用法規の問題は、違法事由の存否として本案の問題でも重要な争点となるので、当事者は主としで本案の論点として議論しているが、この論点は、本案の問題でもあると同時に本案前の論点でもある。そこで、本案前と本案に共通する前提問題として、この適用法規の問題を先に検討することとする。

二 適用法規(争点二)

1 本件産廃処分業許可の根拠と適用法規

(一)  本件産廃処分業の許可申請と廃棄物処理法の改正

訴外会社は平成三年三月六日に旧法に基づき本件産廃処分業の事業予定計画書の提出をし(乙一三)、被告は平成四年七月三日に本件産廃処分業の許可申請についての「受理」通知を発した(証人小野沢)。ところで、廃棄物処理法は平成三年一〇月五日法律第九五号(改正法)により改正され、新法は平成四年七月四日に施行された。したがって、訴外会社は、旧法下で産廃処分業の許可申請はしていたが、未だ許否の回答を受け取る前に新法の施行期日を迎えたことになる。

これにつき、被告は、後記のような解釈に基づき、新法による申請とみなし、かつ、旧法による審査基準に基づき本件産廃処分業許可をした。

(二)  産廃処分業の許可に関する法規の改正と経過規定

(一)のように法律の改正があった場合において、その施行期日の前後にまたがる法律関係の適用が問題となるときに備えて、経過規定が改正法規の附則に定められるのが通例である。本件に即していえば、申請後の扱いを旧法で行うのか、新法で行うのか、それとも申請からやり直してもらうのかといったことを改正法自体が定めることになるのであり、これは、改正に際しての立法者の責務と考えられるところである。

廃棄物処理法についての平成三年の改正においては、この点につき、改正法附則三条二項に「この法律の施行の際現に……都道府県知事に対し旧法の規定……によりされている申請で、前項の表の上欄に掲げる許可に係るものは、それぞれ同表の下欄に掲げる許可に係る申請とみなす。」と規定されている。そして、他に何らの経過規定もおいていない。その結果、旧法下で申請だけされた産廃処分業の許可申請は、右の経過規定に基づき、新法の該当する規定に基づく申請とされて、新法に基づいてその後の許否が決定される旨が定められていると解される。

そうすると、既に旧法下において申請し、旧法の基準で審査を受けられると考えていた申請者としては、法律の改正により、突然新法の基準に従って審査されるということになるわけで、しかも、新法の基準が厳しいものとなったわけであるから、いわば期待権を侵害されたという面がある。もちろん、一般的には、このような事情を考慮して、経過状態にある法律関係につき、審査も旧法の基準によると改正法規に定められることもあるし、本件のように、むしろ新法によることとされる場合もある。その区別の基準は、期待権の要保護性、期待権を奪うほどの改正の意味と重要性の有無、新法下における旧法の処理と新法の処理の一元化の可能性と必要性等を考慮して決められるのが通例である。本件の問題については、産業廃棄物の処理の適正化という極めて今日的で人の生命健康にかかわる重要案件であること等に照らして、立法者は、未だ申請段階にとどまり、施設建築費を支出するまでには至っていない案件については、既に支出した費用の無駄ということもないので、新法による審査を要請したものと解されるのである。

(三)  本件産廃処分業の許可申請に適用されるべき法規

(二)のとおり、本件産廃処分業の許可申請に対する審査基準は、新法ということになると解するのが相当である。

2 本件産廃処理施設に関する法規

(一)  産廃処分業と産廃処理業の用に供する施設との関係

産廃処分業の許可を受けるには、その事業の用に供する施設が必要である。この点は、改正の前後を通じて変わりはない(旧法一四条二項一号、新法一四条三項一号)。したがって、産廃処分業の許可に際しては、産廃処理業の用に供する施設についての法規適合性が問題となり、産廃処分業許可を争う原告適格があるかどうかを判断する際にも、産廃処分業許可のみならず当該処理施設に適用される法規が旧法なのか新法なのかが問題となる。そこで、原告適格の判断に際しての先決問題としても、当該処理施設の設置についての適用法規が問題となる。

(二)  産廃処理施設についての法規の改正

旧法下では旧令七条に規定する施設が産廃処理施設とされ、その設置については都道府県知事に対する届出が必要であり、旧令七条に該当しない施設は右届出が不要であった(旧法一五条一項・一二条五項二号、旧令七条)。

これに対し、新法下では、新令七条に規定する施設が産廃処理施設とされ、これを設置しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならなくなった(新法一五条一項、新令七条)。

(三) 産廃処理業の用に供する施設についての法規の改正と経過規定

(1) 旧法下で設置についての届出を要するとされていた産廃処理施設

旧法下で設置についての届出を要するとされていた産廃処理施設は、旧法下でその届出がされその効力が生じていた場合には、新法一五条一項の許可があったものとみなされる(改正法附則五条一項)。また、旧法下で右の産廃処理施設の設置についての届出をし、届出後に変更命令を受けてこれを実行した者や施行日までに所定の期間が経過していないが所定の通知を受けた者は新法により設置許可を受けた者とみなすとの経過規定(同条同項)は設けられている。設置についての届出の効力発生要件を実質的に満たしたと同等の状況にある者について、経過規定により新法一五条一項の設置許可があったと同視されるという内容である。

(2) 旧法下で設置についての届出を要しなかった施設(非産廃処理施設)

次に、旧令七条に定める要件に該当しないため旧法下では設置についての届出も要しない施設(非産廃処理施設)については、新令七条の施設に該当しなければ、新法下でも設置許可を要しないこととなる。この場合経過的な問題は生じない。

これに反し、旧法下で設置についての届出を要するとはされていなかったものの、新法下では設置許可を要することとされた施設もある。このような施設について、旧法下で建築を計画していたところ、新法の施行を迎えたというような場合を想定すると、一般論とすると、経過的な問題は考えられる。しかし、改正法は、このような場合について、経過規定を用意していないので、このような産廃処理施設については、新法一五条に従って扱われることとなる。

そうすると、旧令七条非該当施設を新法下で建築する場合に限ると、新法下で設置許可を要する施設(新令七条該当施設)については設置許可を得る必要があり、新法下でも設置許可を要しない施設(新令七条非該当施設)であれば設置許可を得る必要がないとされることとなる。

(四)  本件産廃処理施設について適用されるべき法規

ところで、本件産廃処理施設は、旧令七条に定める施設に該当しないため旧法下では設置についての届出を要しないものであったが、一日当たりの処理能力が五トンを超える22.4トンであるので、新令七条には該当することとなった(争いがない。)。そして、本件産廃処理施設の場合、その建築計画は旧法下で立てられたのであるが、(三)(2)後段のとおり、このような場合の産廃処理業の用に供する施設(本件産廃処理施設)の設置許可については、経過規定は用意されていない。むしろ、このような産廃処理業の用に供する施設については、新法施行日以降に新法で要求される設置許可を得るようにするしかなく、それこそが「廃棄物の排出を抑制し、及び廃棄物の適正な……処分等の処理をし、……生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする」との新法の考え方(新法一条)に沿うものと解される。

3  被告の主張に対する判断

(一) 産廃処分業の審査基準

旧法下で産廃処分業の許可申請がされ、許可前に新法の施行を迎えた事案については、被告も、改正法附則三条二項の経過規定により右の申請は新法によるものとみなされるとの解釈を採る。この点は前記判断と同じである。ところが、被告は、行政通知(乙三の第五の二)を理由に、この場合の審査基準は旧法であると主張する。

しかし、申請について新法によりされたものとみなすということは、まさに新法によるということであり、それにもかかわらず、新法施行後の時期にされる審査を旧法による基準に基づいて行うということは背理であり、経過規定の自然な解釈として導くことが困難である。仮に、審査を旧法により行うことができるとするというのであれば、経過規定にそれだけの明示の根拠があることを要するというべきであり、例えば、右の経過規定に「この法律の施行の際現に……都道府県知事に対し旧法の規定……によりされている申請で、前項の表の上欄に掲げる許可に係るものについては、なお従前の例による。」とか「この法律の施行の際現に……都道府県知事に対し旧法の規定……によりされている申請で、前項の表の上欄に掲げる許可に係るものについては、その許可の審査基準は旧法……条に、許可証の発給は新法規則……条による。」といったふうに規定されていることを要するというべきである。それがない以上、立法者の意思は、右のように産廃処分業の許可申請途中で改正法の施行日を迎えたという場合には新法を適用するという趣旨であり、それは、廃棄物を適正に処理しようとする新法の目的に沿うことであり、合理的であると思われる。被告の主張及び乙三の通知は、改正法附則の合理的な解釈に反するものであり、採用することができない。なお、産廃処分業の許可についての法の文言レベルの改正は、前述のとおり産廃処理業の用に供する施設の改正(設置届出不要のものが設置許可を要するものとなる場合がある。)ほど、大きなものではない。

(二) 本件産廃処理施設についての適用法規

(1) 被告は、「本件産廃処理施設は旧法一五条一項で定める設置についての届出の必要は施設には該当しないから、本件産廃処分業の許可申請は、旧法一四条二項一号及び二号の要件を満たしている。」旨を主張する。この趣旨が、本件産廃処理施設が旧法基準を満たせば、本件産廃処理施設を利用しての本件産廃処理業の許可申請(新法施行期日に許可申請中)が適法であるというものであるならば、右被告の主張は採用できない。

本件産廃処理施設は、新法により設置許可を要することとなったところ、その許可がされていないという瑕疵を有するものである。本件産廃処理施設についても、本件産廃処分業についても新法が適用されるべきであり、これに反する主張は採用できない。

(2) また、被告は、「仮に、本件産廃処理施設につき新法が適用されるべきであるとしても、旧法下で産廃処分業についての許可申請がされており、旧法下での産廃処理施設の設置についての届出を経たことに準じた状況にある本件産廃処理施設は、経過規定を類推適用して新法による設置許可を受けたことになると解するべきである。」旨を主張する。従前から、被告は、設置についての届出を要しない産廃処理業の用に供する施設をもってする産廃処分業の許可申請があった場合には、直ちに施設建築に着手するのを許すのではなく、着工制限の指導を施し、産廃処分業の許可申請の審査が終了した時点で申請書受理通知を発し、着工を認める運用をしていた。そして、本件産廃処理施設もそのような段階までに達していたので、いわば設置についての届出を要する施設においてその届出がされていたのと同じ状態にあったから、既に設置許可がされたものとみなす、あるいは改めて設置許可を要する必要はない旨を主張するものと解される。そして、現に、被告は、旧法下で設置についての届出の不要な産廃処理業の用に供する施設についても、実質的に着工制限をし、産廃処分業の許可申請を受けてその受理通知書を交付するまでの過程で、産廃処理業の用に供する施設について種々の指導をするという扱いをしていた(証人小沢)。

しかし、右のような産廃処理業の用に供する施設は、所詮、設置についての届出が不用とされる規制の緩い施設であり、経過規定等の法律による明示的な根拠なしに新法下で設置許可のあった産廃処理施設に代えることはできないといわなければならない。なお、新法施行日において既に着工し、あるいは完成していたというなら、新法一五条一項の「処理施設……を設置しようとする」場合には当たらず、設置許可申請は不用と解することはできるし、その旨の行政通知(乙三の第三の3(2)、甲四の問一一四)もある。しかし、本件産廃処理施設については、新法施行日現在着工はされていなかった(争いがない。)のであり、行政通知の反射解釈からも、未着工のものは新法によることとなる。

三  原告適格の有無(争点一)

そこで、原告に本件産廃処分業許可を争う原告適格があるか否かについて検討するが、本件産廃処分業許可の根拠法規としては新法の関係規定によることになる。

1  原告適格についての判例法理

行政事件訴訟法九条が定める行政処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、右の法律上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であって、それは、行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定の者が受けることとなる反射的利益とは区別されるべきものである。そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益をもっぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規及びそれと目的を共通する関連規定によって形成される法体系の中において、当該処分の根拠規定が当該処分を通して右のような個々人の個別的利益をも保護すべきものと位置づけられているものとみることができるかどうかによって、判断される。(全体につき、最高裁平成四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号五七一頁)

2  産業処分業許可の根拠法規の趣旨

(一) 検討対象法規と改正

そこで、産廃処分業許可の根拠法規を検討するが、二のとおりであるから、新法を基礎に検討する。

(二) 産廃処分業の許可に関する根拠規定の概要

産業廃棄物の処分を業として行おうとする者は、当該産廃処分業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない(新法一四条四項本文)。

そして、許可基準を定めた同条六項は、「都道府県知事は、第四項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。」とし、その一号において「その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして厚生省令で定める基準に適合するものであること。」と定めている。

(三) 産廃処理施設の基準及び右施設の意味

次いで、(二)の新法一四条六項一号のうちの産廃処理施設に関する基準について、新規則一〇条の五が規定し、そのうち本件に関係する施設に係るものとして、「ゴムくずの処分を業として行う場合には、当該ゴムくずの処分に適する破砕施設、切断施設、焼却施設その他の処理施設を有すること」(一号イ(5))、「その他の産業廃棄物の処分を業として行う場合には、その処分を業として行おうとする産業廃棄物の種類に応じ、当該産業廃棄物の処分に適する処理施設を有すること」(同(6))を定めている。

ところで、新法一五条一項が「処理施設を設置しようとする者は都道府県知事の許可を受けなければならない」と定めているから、少なくともこれから同項及び同項の規定する新令七条に該当する産廃処理施設を建築する場合には、当該施設について、新法一五条一項に定める設置許可を受けなければならない。そして、規定の文言上及び性質上、右の施設は完成していることは要しないが、新法一四条四項の産廃処分業許可時までには同法一五条一項の産廃処理施設の設置許可を受けていなければならないと解される。

したがって、産廃処分業の許可を受ける場合において、その事業の用に供する施設として新令七条に該当する産廃処理施設を設置しようとするときは、その許可の段階で同法一五条一項の産廃処理施設の設置許可を受け、かつその施設が新規則に定める基準を満たすものでなければならないと解すべきである。

(四) 産廃処理施設の設置許可基準

(1) そこで、新規の産廃処理施設の設置許可について、どのような要請があるかをみることとする。

産廃処理施設を設置しようとする者は、設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない(新法一五条一項)。都道府県知事は、右の設置許可申請に係る産廃処理施設が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、許可をしてはならないとされ(新法一五条二項柱書)、その一号において「厚生省令……で定める技術上の基準に適合していること。」と定められている。

(2) 新法一五条二項一号の厚生省令である新規則一二条は、産廃処理施設のすべてに共通する技術上の基準として「産業廃棄物の飛散及び流出並びに悪臭の発散を防止するために必要な構造のものであり、又は必要な設備が講じられていること」(四号)、「著しい騒音及び振動を発生し、周囲の生活環境を損なわないものであること」(五号)を定めている。また、新規則一二条の二は、右の他、個別的に技術上の基準を要請し、その五項は、新令七条一三号の二に掲げる施設(産業廃棄物の焼却施設であって、一日当たりの処理能力が五トンを超えるもの)の技術上の基準は、新規則一二条の二第三項の規定の例による他、次のとおりとするとし、その一号イは、「主要な燃焼室の出口における炉温がおおむね摂氏八〇〇度以上の状態で産業廃棄物を焼却することができるものであること。」を要求している。これは、高温で焼却することにより、有害物質の排出を防止できるとするものと解される。

(五) 申請者の能力に関する要件

産廃処分業の許可要件として、(二)の新法一四条六項一号は、申請者の能力について定めているが、その基準として、新規則一〇条の五第一号ロは、「厚生大臣が認定する産業廃棄物の処分に関する講習を終了した者又は厚生大臣がこれと同等以上の知識及び技能を有すると認めるものであること。」(同号ロ(1))及び「産業廃棄物の処分を的確に、かつ、継続して行うに足りる経理的基礎を有すること。」(同号ロ(2))と定めている。

また、新法一四条六項二号は、「申請者が第七条第三項第四号イからチまでのいずれにも該当しないこと。」と規定している。右のイからチの内容は、禁治産者等で復権を得ない者(イ)、禁固以上の刑に処せられ、その執行を受け終わり、又は受けることがなくなった日から五年を経過しない者(ロ)、その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者(ホ)等であり、結局右二号は、いわゆる欠格事由に該当しない者であることを要件としている。

3  周辺住民の個別的利益の保護の有無

(一) 産業廃棄物の内容

廃棄物は、一般廃棄物と産業廃棄物とに大きく区分されるが、いわゆるゴミやくずを総称する(新法二条一項)といってよい。産業廃棄物とは、事業活動によって生じた廃棄物のうち、燃えがら、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物(同条四項一号)をいい、これを受けて新令二条は、産業廃棄物として、本件に関係するものとしては、紙くず(建設業に係るもの―工作物の新築等に伴って生じたもの、パルプ、紙又は紙加工品の製造業、新聞業、出版業、製本業及び印刷加工業に係るもの並びにPCBが塗布され、又は染み込んだものに限る。)、木くず(建設業に係るもの―工作物の新築等に伴って生じたもの、木材又は木製品の製造業、パルプの製造業及び輸入木材の卸売業に係るもの並びにPCBが染み込んだものに限る。)、繊維くず(建設業に係るもの―工作物の新築等に伴って生じたもの、繊維工業―衣服その他の繊維製品製造業を除く。―に係るもの及びPCBが染み込んだものに限る。)及びゴムくず等をいうとしている。

(二) 産業廃棄物の扱いと産廃処理施設周辺への影響

元来、産業廃棄物を含む廃棄物の排出を抑制することは、新法がその一方において目的とするものである(一条)が、人々の社会活動に伴い廃棄物が多かれ少なかれ発生することは不可避であり、その排出を完全に抑制することは不可能である。したがって、廃棄物の排出の抑制を図るとともに、他方で排出された廃棄物の適正な処理が必要となる。そして、新法は、その両者並びに生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的としている(一条)。

産業廃棄物がこのようなものであることからすると、その種類及びその焼却の仕方によっては、産廃処理施設がその周辺の住民の生活に悪影響を及ぼすおそれもないではない。特に、前記の基準に基づく産廃処分業及び産廃処理施設の許可申請に対する審査に過誤や欠落があった場合には、産廃処理施設を利用して行う産業廃棄物の処理について事故及び許された基準を超える環境に対する悪影響等が生じる可能性があり、事故又はそのような悪影響が起こったときは、右施設の近くに居住する住民ほど健康被害を受ける蓋然性が高いと予想される。

(三)  産廃処理施設周辺住民の個別的利益の保護

産廃処分業及び産廃処理施設に関する前記の一連の規定は、このような事故及び悪影響等がもたらす被害の性質を考慮した上で、その産廃処理業の用に供する施設の技術及び能力に関する基準を定めていると解される。さらに、新法は、その点に配慮して、産廃処理施設の設置許可には、生活環境の保全上必要な条件を付すことができること(新法一四条三項)、産廃処理施設の設置者は周辺地域の生活環境保全及び増進に配慮するものとすること(新法一五条の四・九条の四)、一日当たりの処理能力が五トンを超える焼却施設の場合の技術上の基準の一として、焼却施設の煙突から排出されるガスによる生活環境保全上の支障が生じないようにすることができる排ガス処理設備が設けられていること(新規則四条一項七号ハ)といった周辺地域への配慮を定めた規定を置いている。

このように周辺の環境に配慮するのは、産廃処理施設を建築すると周辺地域への悪影響が起きる可能性があるので、これを未然に解消する趣旨であることはいうまでもない。

右の各規定の設けられた趣旨、右各号が考慮している被害の性質等にかんがみると、新法一四条六項の規定は、単に公衆の生命安全環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、産廃処理施設の周辺に居住し、右施設自体あるいは施設の事故がもたらす災害や悪影響により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される付近住民の生命身体の安全等を個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。

(四) 保護される周辺住民の範囲を画する基準

そして、原告の居住する地域が被害の想定される地域であるかどうかについては、本件産廃処理施設の種類、構造、規模等の本件産廃処理施設に関する具体的な諸条件(被害の可能性と内容を含む。)を考慮に入れた上で、原告の居住する地域と本件産廃処理施設の位置との距離関係を中心として、社会通念に照らして、合理的に判断すべきである。

4  本件の原告の原告適格の有無

(一) 本件産廃処理施設の内容と周辺への影響の可能性

訴外会社の計画によると、本件産廃処理施設において燃焼される産業廃棄物は、木くず七五パーセント、紙くず一五パーセント、ゴムくず五パーセント、繊維くず五パーセントとされている。排出元は建物解体業者、建設業者、タイヤ業者、繊維業者などである。これらが燃焼された際に排出されるガス中には、窒素酸化物、ばいじんがある。解体現場から排出される物には、メラミン系接着剤を使用した合板、塩ビ系の壁紙、塩ビ系の桶、水道管、下水管等が含まれ、繊維くずにはナイロン、ビニロン、ポリエステルなどの合成繊維等や木綿、毛などの天然繊維とが含まれ、ゴミくずには加硫処理による硫黄が含まれる。これらが分別されないで焼却された場合には、その排出ガス中に、塩化水素ガス、二酸化硫黄、ダイオキシン、コプラナーPCBなどの他、水銀、鉛、カドミウム、砒素、銅などが含まれる可能性がある。(この段の事実は争いがない。)

そして、本件産廃処理施設は、本件産廃処分業許可後の平成七年二月から操業を開始している。右施設が丘陵地帯の窪地に設けられているため、煙突の高さが約二四メートルあっても、煙突の先端が周辺地域より高いわけではなく、煙突の先端より高所にある原告の茶畑のような地域に対しては、施設の煙突からの煙が拡散される前にその排煙の影響が及ぶ可能性がある。しかも、現段階では、稼働率は一、二割程度であるから、これが本格的な操業となると、影響が増加する危険性がある。また、本件産廃処理施設は、廃材の焼却も行っているところ、その際に、合板も焼却するため塩化水素ガスが排出され、これが水に溶けやすいので、塩酸となって健康被害をもたらす危険性がある。(原告本人、甲二二の一・二、甲二三、弁論の全趣旨)。

なお、木くず、建設混合廃棄物に含まれる紙くずには、塩素化合物を含有する物質が使用されていることが多く、また、建設混合廃棄物には大量の塩化ビニール系廃棄物が混入する可能性があり、それらを摂氏八〇〇度に至らない温度で焼却するとダイオキシン(猛毒物質で発ガン性がある。)が発生するおそれがあるといわれている(甲七二・七七)。そして、本件産廃処理施設に近い土壌ほどダイオキシンを含む量が多いように見える検査結果(甲六九・七〇)があるが、右施設から2.5キロメートル離れた地点の土壌にもダイオキシンを含むとの結果が出ているので、本件産廃処理施設とダイオキシンとの因果関係を肯定するのはなお慎重であるべきである。

(二) 原告への影響

本件産廃処理施設から西に二〇〇メートル及び六〇〇メートルの距離の所に各四〇アール程の原告の茶畑がある。そして、原告は、茶畑で農作業に従事し、毎年五月、七月及び一〇月の年三回収穫し、夏の時期には手入れのために茶畑に出かける回数が増える(甲七六、甲一六の一、原告本人)。そのため、原告は、本件産廃処理施設の付近に居住しているというわけにはいかないが、その出かける頻度からすると、本件産廃処理施設の機能、運転状況、風向き等によっては、右施設から排出される煙の中に含まれる有害物質により、健康に悪影響を及ぼす被害を被るおそれがあると認められる。また、右排煙が原告の茶畑自体に有害物質をもたらすというおそれもないではなく、そうなると、一般論としていえば、消費者の健康に被害を及ぼすおそれもないではなく、その場合には、消費者との問題の解決に当たる原告自身も、財産的な損害にどとまらない重大な精神的被害を被ることにもなりかねない。

そうすると、原告は、本件産廃処理施設の周辺住民とはいえないが、右のような頻度で右施設の近辺で農作業に従事することを踏まえると、周辺住民に準じた地位にあるということができ、3(三)(四)の法理の適用を受けると解するのが相当である。

(三)  まとめ

以上のように、原告の被る可能性のある被害が原告の心身両面における健康への影響であることに照らすと、原告は、本件産廃処分業許可を争う原告適格を有するというべきである。

四  違法事由の存否(争点三)

1  本件産廃処分業の許可についての根拠法規

本件産廃処分業の許可申請の現実の根拠法規となったのは、前述のとおり旧法一四条一項である。ところが、右申請は、新法施行とともに、経過規定により新法一四条一項の申請とみなされた。そして、この申請に対する審査は、産廃処分業に伴う産廃処理業の用に供する施設の点を含め、被告の見解に従って、旧法の基準によりされた。しかし、この場合の審査は、二のとおり、本来は新法の基準により行われるべきであると解される。

2  根拠法規該当性の有無

(一) 産廃処分業の許可要件と産廃処理施設の基準

前記三2のとおり、産業廃棄物の処分を業として行おうとする者は、当該産廃処分業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない(新法一四条四項本文)。

そして、「都道府県知事は、第四項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはなら」ず(同条六項)、「その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして厚生省令で定める基準に適合するものであること。」が必要である(同項一号)。

また、ここでいう「施設」とは、産業廃棄物の処分業者がその事業の用に供するための施設であるから、少なくとも産廃処分業許可申請に併せて産廃処理業の用に供する施設を新規に建築する場合において、それが新法一五条一項及び同項が規定する新令七条に定める産廃処理施設に該当するときは、申請者は、新法一五条一項に基づき都道府県知事の許可を受けなければならない。そして、右の施設は完成していることは要しないが、新法一四条四項の産廃処分業許可時までには同法一五条一項の産廃処理施設の設置許可を受けていなければならないと解される。

したがって、右のような場合において、産廃処分業の許可を受けるためには、その許可の段階で同法一五条一項の産廃処理施設の設置許可を受け、かつその施設が新規則に定める基準に適合するものであることが必要である。

(二) 本件産廃処分業の許可の根拠規定

本件産廃処分業の許可申請は、旧法下でされたが、経過規定(改正附則三条二項)により、新法一四条四項の許可に係る申請とみなされるので、その事業の用に供する施設が同様に右基準に適合することが必要である。

(三) 産廃処理施設の基準

(1) 標記に関する規定

前記三2(三)のとおり、新法一四条六項に定める厚生省令である新規則一〇条の五は、本件に関する産廃処理施設として、「ゴムくずの処分を業として行う場合には、当該ゴムくずの処分に適する破砕施設、切断施設、焼却施設その他の処理施設を有すること」(一号イ(5))、「その他の産業廃棄物の処分を業として行う場合には、その処分を業として行おうとする産業廃棄物の種類に応じ、当該産業廃棄物の処分に適する処理施設を有すること」(同(6))を定めている。

したがって、産廃処分業の許可の段階において新規則に定める基準を満たす産廃処理施設を有することが要求されている。

(2) 県の行政実務

ところで、神奈川県の行政実務では、改正法の施行前後を問わず、産廃処分業の許可申請をしようとする者に対し、その申請前に事業予定計画書を提出させ、これを審査し、種々の改善指導を行い、その審査終了後に、産廃処分業の許可申請書を提出させ、内容について改めて審査し、適正と認められれば、そこで初めて申請を正式に受理して受理通知書を発し、産廃処理業の用に供する施設の着工を認めることとしている。そして、申請者の産業処理施設が完成し、その竣工検査が終わると、産廃処分業の許可をすることとしている。このようにして、産廃処分業の許可申請時に産廃処理施設を有するとの法定の要件を満たさせ、事実上事前に審査しているところに従い、許可をするという扱いをしている(弁論の全趣旨)。

(四)  本件産廃処理施設の内容

訴外会社は、平成三年三月六日付けで産廃処理業の用に供する施設に係る事業予定計画書を提出し、同年四月二五日にこれを受理され(甲二六)、被告による改善指導を受け、平成四年六月九日にネッシー工業製のMKD四〇〇〇タイプの焼却施設をもってする産廃処分業の許可申請をした(甲七)。被告は、同年七月三日に申請を適正なものと認めて、これを受理し、訴外会社に受理通知書を交付し、産廃処理施設の着工を認めた(弁論の全趣旨)。その後、訴外会社は、産廃処理施設につき、平成六年二月二二日恵比寿産業製のHT四〇〇〇型に変更し、さらに、同年三月二九日及び同年八月一七日に右HT四〇〇〇型の仕様を変更し(甲八から一〇)、同年九月七日に産廃処理業の用に供する施設工事完了報告書を提出し(甲四七)、本件産廃処分業許可を受けた。

このように、訴外会社は、申請受理通知書を受け、本件産廃処理施設の工事に着手し、工事完了後に旧法一四条四項に基づく本件産廃処分業の許可を受けたものである。

(五)  本件産廃処理施設と本件産廃処分業許可の適否

現実には(四)のとおり、旧法下の審査基準により行われているが、本来は、本件産廃処理施設は、処理能力の点で新令七条一三号の二に該当するし、適用すべき経過規定も見当たらないから、その新設に当たっては新法一五条一項の許可を要する。しかも、産廃処理施設は、産業廃棄物の処分業にとって中核的な役割を果たすものであるから、その設置につき法律所定の許可を受けていない場合には、産廃処理施設としての基本的な要件である監督官庁の許可を得ていないものとして、著しい違法を帯びたものとなるといわざるを得ない。

そして、産廃処分業の許可においては、その事業の用に供する施設が新規則に定める基準を満たすことが要件とされているところ、その「施設」が新令七条に該当する産廃処理施設である場合には、その設置には新法一五条一項の許可を要し、右の許可を受けているかどうかは、産廃処分業の許可についての重要な要素となる。したがって、右の設置許可を得た施設であれば、産廃処分業の許可要件としての「施設」という要件は満たすことになる反面、右新法一五条一項の設置許可を受けていない産廃処理施設は、産廃処分業の重要な許可要件としての「施設」という要件を満たさないものということになる。そうすると、新法一五条一項の設置許可を受けていない産廃処理施設をもってする産廃処分業の許可は許されないことになり、換言すれば右設置許可を受けていない申請者に対する産廃処分業許可は違法となるといわざるを得ないと解される。しかも、産廃処理施設の重要性からすると、無許可施設しか有しない申請者にされた産廃処分業の許可は、著しい瑕疵を帯びたものであり、新規則に定める基準を満たすかどうかを問う以前に取り消されるべきであると解するのが相当である。

ところが、被告は、新令七条に該当する本件産廃処理施設につき、旧法事案であるとの前提に立ち、新法一五条一項の設置許可の対象と扱わず、また、本件産廃処分業の拒否についても旧法事案との前提に立ち、新法一五条一項の設置許可を受けていない本件産廃処理施設をもってする本件産廃処分業の許可をしたものである。そうすると、訴外会社に対してされた本件産廃処分業許可は、適法な産廃処理施設を有しない者に対してされたものであるから、産廃処分業の許可要件の重要部分に適合しておらず、取り消すべき違法があるといわざるを得ない。

3  被告の主張に対する判断

(一) 被告の主張(一)について

(1) 被告は、旧令七条非該当施設についても経過規定を類推適用又は準用すべき旨を主張し、それに沿う考え方がある(乙三〇。平成九年一〇月六日口頭弁論期日調書と一体となる証人大津の調書二八頁。複数期日にわたって行われた証人調べのうちの例えば第二回目の口頭弁論期日調書と一体となる調書を、以下「証人大津②」のように記載する。)ので、まず、この被告の主張の根拠を検討する。被告は、「本件産廃処理施設は、旧令七条非該当施設ながら行政指導により、いわば設置についての届出を要する施設においてその届出がされていたのと同じ状態にあったから、既に設置許可がされたものとみなす、あるいは改めて設置許可を要する必要はない。」旨を主張するものと解される。

(2) 被告の主張の背景事情

イ そして、右被告の主張の背景事情として、証拠(乙一三、証人小沢①)によれば、次の事実が認められる。

訴外会社の前身となる有限会社杉山組他数社から平成二年六月ころ、木くず等の廃棄処理を行いたいとの相談が神奈川県の西湘地区行政センターに持ち込まれた。旧法下において、法定手続は旧法一四条二項の申請により初めて開始されるのであるが、県では、法定手続の開始前に事前審査を行う行政指導を行っていた。右の相談は、右の事前審査としての行政指導の始まりとなるもので、担当者は、手続の概要を説明するなどし、相談者は訴外会社を設立して、平成三年三月六日付けで事業予定計画書を提出した。相談担当者は、同年四月二五日付けでこれを受理し、産廃処理業の用に供する施設の設置予定場所の自治体である小田原市に右予定計画書を送付して同市と協議に入った。

訴外会社の設置予定の産廃処理業の用に供する施設は、旧令七条に該当するものではなく、旧法一五条に基づく設置についての届出の必要のないものであったが、相談、指導、審査等がされ、これを終えると、相談担当者は、相談者に必要な修正等を施した事業予定計画書を提出させ、これを県の環境部長(窓口は環境整備課)に送付し、指導を受け、相談者(訴外会社)に法定の産廃処分業の許可申請書を提出させる運びとなった。これにより、法定手続前の行政指導が終わり、法定手続の開始となった。

訴外会社から産廃処分業申請書が環境部長宛に提出されたのは平成四年六月三〇日付けであり(西湘行政センター宛は同月九日―甲七)、その受理通知が同年七月三日に行われた。

ロ イの事実のように、被告としては、既に平成二年の段階で相談を受け、行政指導を継続し、平成三年三月に事業計画予定書を提出させていたから、その後の同年一二月に法改正がされても、改正法成立前からの案件であるからとして旧法事案と判断し、新法事案となり得ることを考慮外にしていたきらいがあり(証人大津①一二頁)、新法の施行日直前の平成四年六月二四日に至り、急遽厚生省の所管課に問い合わせることとしたところ、改正法附則五条の経過規定を類推する見解を教示され(乙三〇)、これに従い、旧法事案とするために許可申請についての受理通知を新法施行日前日の平成四年七月三日付けで行い、(1)の見解によっているものと認められる。

(3) 類推適用の許容性の不存在

しかし、前記二3(二)(2)のとおり、訴外会社が産廃処理業の用に供する施設(本件産廃処理施設)は、旧法下では、所詮、設置についての届出が不要という規制の緩い施設であったものであり、経過規定等の法律による明示的な根拠なしにこれを新法下で設置許可のあった産廃処理施設に代えることはできないといわなければならない。なお、新法施行日において既に着工し、あるいは完成していたというなら、新法一五条一項の「処理施設……を設置しようとする」場合には当たらず、設置許可申請は不要と解することはできるが、本件産廃処理施設については、新法施行日現在着工はされていなかったのであり、新法によることとなる。

また、一般論としていえば、類推適用又は準用して経過規定を当てはめるということは、それ自体まず法的安定性を損なう。経過規定はもともと改正の合間に挟まれた旧法と新法とにまたがる法律関係を処理するための法技術であるから、明文の経過規定に定められた範囲で適用するのが大原則であり、準用又は類推適用はよほどのことでない限り避けなければならない。

さらに、改正法の施行日は平成四年七月四日ではあるが、その成立日は平成三年一〇月五日であり、成立から施行までの間に九か月間があるので、新法施行日までに旧法による産廃処理業の用に供する施設及び旧法による産廃処分業として事業を開始することができるか、新法に定める手続によることとなるかについて、十分な予測を立てて、適宜の措置を講じることを旧法下の申請者に要請しても、新法施行後に産廃処理施設及び産廃処分業の許可を得る者との対比からすると、それほど過大な、あるいは予想外の負担を負わせることにはならない。

(4) 類推適用をすべき背景事実の消滅

しかも、仮に一般論として類推適用の余地を認めるとしても、本件の具体的事情の下では、次のとおりそれを認める必要も理由もない。すなわち、第一に、訴外会社は、行政実務上産廃処理業の用に供する施設の着工が可能であることを意味する産廃処分業の許可申請受理通知書の交付を受けたにもかかわらず、新法施行から相当期間を経過している平成五年四月一日当時でも、未だ本件産廃処理施設の建築工事に着手しておらず、ようやく同年六月末に至って着工した(証人大津②三二頁、弁論の全趣旨)。したがって、訴外会社は、その産廃処理施設について、平成五年六月末より前までに新法の基準が要求されても、準備のための書類の用意等が無駄になるという面はあろうが、それ以前に既に旧法に基づく施設工事をしていてそれが無駄になるというような関係はなかったといってよい。

第二に、本件産廃処分業の許可申請についての受理日が平成四年六月三〇日で、その通知を発した日が平成四年七月三日であり、この計画予定の産廃処理施設(焼却施設)はネッシー工業製のMKD四〇〇〇型であったところ、訴外会社は、その後平成五年一〇月ころ焼却施設のメーカーを変更したいという希望を表明し(証人大津①一八頁)、平成六年二月二二日付けで「ばい煙発生施設設置変更届」(甲八)を提出し、焼却炉のメーカーを恵比寿産業製のHT四〇〇〇型に変更する旨の届けを提出し、次いで、平成六年八月一七日付けで右の変更届の記載事項を変更する旨の変更願い(甲一〇、乙二四の二〇頁)を提出した。そして、この変更願いに係る焼却施設が最終的に設置されたものであり、しかも、両者の性能は相当に異なるものである(甲五、証人大津②四四頁以下)。このように計画予定の産廃処理業の用に供する施設(焼却施設)の内容が新法施行後に変わるというのであるから、それまで旧法手続で進めてきた事務手続を保護する必要は実質的にも消滅したというべきである。

第三に、右の経過から明らかなように、恵比寿産業製HT四〇〇〇型は、旧法下では審査対象となっておらず、当初審査対象施設の変更として、新法下で審査されたものである。

以上を総合すると、経過規定の類推適用の基礎が相当に失われたといわざるを得ない。この処理手続について被告内部においても相当に議論をしたという事情があり、また申請者から変更願いを出させてヒアリングを繰り返したという事情もある(証人大津①二一頁)が、そのことは、逆に言えば、事情が変わったということを意味するものでもある。産廃処分業の許可においても産廃処理業の用に供する施設の設置許可の有無、基準適合性がその許否について相当な比重を占めるものと解されるが、その産廃処理施設の仕様が変わるというのであり、それが新法施行後のことであり、新法事案ならば新令七条該当施設として新法一五条一項の産廃処理施設設置の許可を要するというのであるから、かつ、旧法事案とするという理由としては旧法下に産廃処理業の用に供する施設をもってする産廃処分業の許可申請がされたという事情があるだけであるから、それにこの段階でも経過規定を類推適用するというのは、いかにも無理を重ねるものといわざるを得ず、採用することのできない見解である。この点につき、産廃処分業の許可そのものにかかわる問題ではなく施設の運営上の問題であるという意見がある(証人大津①二五頁)が、相当ではない。

(5) よって、(1)の被告の主張は、採用することができない。

(二) 被告の主張(二)について

(1) 被告は、「仮に本件産廃処理施設について新法一五条一項に基づく設置許可が必要であるとしても、本件産廃処理施設については実質的には右設置許可審査と同様の手続がされているので、本件産廃処分業許可に産廃処理施設の設置許可手続潜脱の違法はない。」旨を主張する。

(2) そこで、検討するに、証人大津の証言及び以下に適宜記載の証拠によれば、次の事実が認められる。

本件産廃処分業の許可申請書受理通知後に、訴外会社は、焼却炉の変更を希望する旨を被告に伝えてきた。これは、ネッシー工業との契約問題がうまくいかないこと、当初計画中のネッシー工業製の焼却炉について他の事業者がした検査結果が芳しくないということを理由とするものであった。変更願いのあったのが恵比寿産業製のHT四〇〇〇型であるが、これについて、被告において、ヒアリングを繰り返し、焼却炉の構造、性能等の内容が変化しながら固まっていった。そして、竣工検査は、平成六年一二月二一日及び二二日に行われ、適正な施設であるとの確認がされた(乙二九)。被告は、この審査に際し、本件産廃処理施設が旧令七条非該当施設であるものの、新令七条該当施設に要求される新規則一二条及び一二条の二に基づく基準に適合するかどうかを検査し、適合するとの判断に達した(乙二八、弁論の全趣旨)。なお、竣工検査時において、再確認を要する事項もあったところ、これにつき訴外会社から対応報告書が出されたため、被告は、平成七年一月二〇日総合的に判断して許可相当とし、同月三一日付けで本件産廃処分業許可をした。

しかし、右のヒアリングを反復している過程にある時期で、被告が未だ計画内容すら了承していなかった段階の平成六年四月一一日から一四日にかけて、訴外会社は、焼却炉の本体等を施設に搬入した。したがって、搬入された焼却炉の本体と書面により変更を加えながら被告において審査していた恵比寿産業製のHT四〇〇〇型とが同一かどうかには懸念がもたれることとなった。ネッシー工業製の焼却炉と恵比寿産業製の焼却炉とが構造的に異なるところがある(例えば、恵比寿産業製には神奈川県公害防止条例で要求されている二次燃焼室が形式的には存在しない。)ものの、被告は、両者の同一のところはネッシー工業製で審査したことをもって足りると判断し、二次燃焼室についていえば、恵比寿産業製のHT四〇〇〇型はこれを有しないが、これを有するものと同等以上の効果を有すると判定した。また、被告は、申請書中の計算式については、検証はしていない。この分野の専門家である菱田一雄は、恵比寿産業HT四〇〇〇型の本件焼却炉につき、申請書中に記載の計算がおかしいという意見を述べている(甲二二の一・二)。また、竣工検査に際し、近隣住民の反対運動があったために、被告の検査担当職員は夜中に本件産廃処理施設に入り、二日間で検査を行った。さらに、本件産廃処分業許可後のことであるが、平成七年七月二九日に本件産廃処理施設において、排水流出事故が発生した。これは、訴外会社が廃棄物処理の作業過程で飛散した廃棄物等を水で洗い流した後、それらの排水が施設外に流れ出たというものであり、この事故後の検査の過程で、設計時の図面に記載されていない配管が発見された(甲四〇・四一)。

(3) (2)のような事実によれば、本件産廃処理施設について、被告が新法一五条一項に定める設置許可におけるのと同様の審査をし、その審査基準に適合しているから実質的に審査を受けたのと変わらないというのはなお困難である。もともと、新法事案とされるべきであるから、新法一五条一項の設置許可を受けていないにもかかわらず、それと実質的に変わらない審査を受けて、基準に適合したというためには、実質的な観点から新法一五条一項の設置許可を受けた場合以上に十分な、少なくとも周辺住民から合理的な疑いや懸念を表明されないようなものでなければならない。そのような観点から、(2)の事実関係をみると、実質的に新法一五条一項の設置許可を受けたと同視すべき事情にあるとまではいえないということである。

(4) よって、(1)の被告の主張は、採用することができない。

4  まとめ

そうすると、本件産廃処分業許可は、新法一五条一項の設置許可を受けていない産廃処理施設をもってする訴外会社に対してされた点において、重大な瑕疵があり、原告主張の他の違法事由について判断するまでもなく、既に違法であり、取り消されるべきである。

五  結論

よって、原告の請求は理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用を被告の負担として、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岡光民雄 裁判官近藤壽邦 裁判官平山馨)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例